「手に職」をつけて働く塗装職人。その仕事は、建物の美観を保つだけでなく、保護という重要な役割も担っています。しかし、気になるのはやはり「これから給料は上がるのか?」という点ではないでしょうか。この記事では、塗装業界の現状と将来性を踏まえ。2025年における塗装職人の給料事情を解説します。
結論:職人の給料は将来的に上がる可能性が高い
塗装職人の皆様が最も関心をお持ちであろう、給料の将来について、結論から申し上げます。塗装職人の給料は、将来的に上昇する可能性が高いと考えられます。その主な根拠として、以下の3点が挙げられます。
まず一つ目は、高齢化などにより塗装業界で人手不足が深刻化している一方で、住宅の改修・リフォーム需要は安定している点です。このように需要に対して供給が不足することで、塗装職人の価値は高まる傾向にあります。
次に二つ目は、建設業界全体で働き方改革が進み、賃上げの動きが広がっていること、そして国もこうした待遇改善を後押しする政策を推進している点です。
そして三つ目は、遮熱・断熱塗料や光触媒塗料といった機能性の高い塗料の登場、またドローンを使った点検や塗装ロボットなど、新しい技術の導入により、塗装職人に求められる専門性が向上している点です。
理由1:深刻化する人手不足と安定したリフォーム需要
塗装職人の給料が今後上がる可能性が高い理由の一つとして、建設業界全体、そして塗装業界における深刻な人手不足が挙げられます。国土交通省の調査によると、建設業界では平成23年以降、10年以上にわたり人材不足が続いていることが示されています。特に、2025年4月時点では、建設業で正社員の人手不足を感じている企業は約68.9%に上り、全業種平均を大きく上回る状況です。これは、塗装職人を含む建設技能労働者の高齢化が進む一方で、若年層の入職が少ないことが主な背景にあります。
人手不足が深刻化すると、一人ひとりの職人の価値が高まり、需要に対して供給が追いつかない状況が生まれます。これにより、企業は優秀な人材を確保・定着させるために、給与水準を引き上げる必要に迫られる可能性が高まります。
一方で、住宅のリフォームや改修工事といった需要は安定しています。住宅リフォーム市場全体の市場規模は年間約6兆円と大きく、そのうち塗装市場も年間約6000億円規模を誇ります。既存住宅の維持・修繕は景気変動の影響を受けにくいため、塗装工事の仕事量が安定して確保される傾向にあります。
理由2:建設業界全体の賃上げムードと国の政策後押し
塗装職人の給料が今後上がる可能性がある理由の二つ目として挙げられるのが、建設業界全体で広がる賃上げの動きと、それを後押しする国の政策です。近年、建設業界では、他産業との賃金格差是正や若年層の入職促進を目指し、積極的な賃上げが進められています。例えば、2024年には大手ゼネコンで6%を超えるベースアップが実現し、また2024年3月には岸田首相が建設業界に対し5%以上の賃上げを要請するなど、業界全体の賃上げムードが高まっています。
また、政府も技能労働者の処遇改善を強力に推進しています。国土交通省が主導する「建設キャリアアップシステム(CCUS)」の普及促進はその一つです。これは、個々の技能者が持つスキルや経験を客観的に評価し、それに応じた適切な賃金が支払われる環境を整備するための仕組みです。さらに、公共工事設計労務単価の継続的な引き上げも行われており、これにより公共工事における技能労働者の給与水準向上が図られています。
理由3:高付加価値塗料や新工法の登場による専門性の向上
塗装職人の給料が上がる可能性を後押しする理由の三つ目として、高付加価値塗料の普及や新しい工法の登場により、仕事の専門性が高まっている点が挙げられます。近年では、建物の美観を維持するだけでなく、様々な機能を付加する塗料が登場しています。例えば、以下のようなものがあります。
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太陽光を反射し室温上昇を抑える「遮熱塗料」
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熱の伝導を抑えて断熱効果を高める「断熱塗料」
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汚れを分解する機能を持つ「光触媒塗料」
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高い耐久性を持つ「無機塗料」
これらの高機能な塗料を適切に扱うためには、従来の塗料に関する知識に加えて、それぞれの塗料の特性や最適な施工方法に関する専門知識、そしてより繊細な塗装技術が求められます。また、近年ではドローンを使った高所点検や塗装、ロボットによる自動塗装、特殊な下地処理技術といった新しい工法も導入されつつあります。
こうした高付加価値塗料や新工法に対応できるスキルを持つ塗装職人は、高度な専門性を持つ人材として評価され、一般的な塗装工事よりも単価の高い仕事に携わる機会が増えます。結果として、個人の市場価値が高まり、給与アップに繋がりやすくなると考えられます。新しい技術や知識を積極的に学び、自身の専門性を高めることが、今後の収入向上において重要な要素となるでしょう。
【データで見る】塗装職人のリアルな給与事情と上がりにくい背景
前述のように、塗装職人の給料は将来的に上昇する可能性を秘めています。しかし、では、現状の給与水準はどうなっているのでしょうか。このセクションでは、客観的なデータに基づき、塗装職人のリアルな給与事情と、給料が上がりにくいとされる背景にある構造的な問題点について解説します。
経験年数・地域別の平均年収はどのくらい?
塗装職人の給与水準は、経験年数や勤務する地域によって差があります。厚生労働省の令和5年度賃金構造基本統計調査によると、「金属・建築塗装工」の平均年収は約462万円(平均年齢42.8歳、勤続年数10.8年)です。また、求人ボックスの2025年4月時点のデータでは、塗装の仕事の平均年収は約425万円と示されており、日本の平均年収と比較するとやや低い傾向です。
経験年数別に見ると、キャリアが浅い見習い期間の給与は低い傾向ですが、経験を重ねるごとに着実に上昇するのが一般的です。例えば、10年以上の経験を持つベテラン職人では、基本給に加えて諸手当を含め、より高い収入を得ているケースが多く見られます。
なぜ給料が上がらない?多重下請け構造の問題点
塗装職人の給料が上がりにくい背景には、建設業界に長く根付く多重下請け構造(重層下請構造)が大きく影響しています。これは、発注者から工事を直接請け負う元請け企業が、その工事の一部または全部を一次請け企業に発注し、さらに一次請けが二次請けへ、と下請け構造が何階層にも連なる仕組みです。
この構造の大きな問題点は、各階層で中間マージンが発生することです。工事代金は元請けから段階を経て下請けへと支払われますが、その過程で各企業が自社の利益を確保するため、工事代金の一部が差し引かれていきます。結果として、実際に現場で施工を行う末端の塗装職人や所属する企業に渡る報酬は、本来の工事価格から大きく目減りしてしまうのです。
今の会社で着実に給料を上げるための4つのアクション
これまでの内容で、塗装職人のリアルな給与事情や、給料が上がりにくい背景にある業界構造についてご理解いただけたかと思います。しかし、現在の勤務先においても、ご自身の努力次第で着実に給与を上げていく方法は十分にあります。
ここでは、塗装職人が現在の会社で市場価値を高め、適正な評価を得るために取るべき具体的なアクションを4つご紹介します。これらは単に給料を上げるだけでなく、職人としてのキャリアを豊かにし、将来の選択肢を広げる上でも非常に重要です。
具体的には、以下の4つのアクションが挙げられます。
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給与に直結する資格を取得し、専門性を証明する
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塗装以外の関連スキルを習得し、仕事の幅を広げる
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現場でのリーダーシップを発揮し、組織への貢献度を高める
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自身の貢献度を踏まえ、待遇交渉を行い、正当な評価を求める
これらのアクションを実践することで、会社にとって不可欠な存在となり、結果として給与アップを実現できる可能性が高まります。次からの項目では、それぞれの具体的なアプローチについて詳しく解説していきます。
「一級塗装技能士」など給与に直結する資格を取得する
現在の会社で給与アップを目指す具体的な方法として、まず、給与に直結しやすい資格の取得が挙げられます。資格を取得することは、自身の技術力や知識を客観的に証明することに繋がり、会社からの評価向上に結びつきます。企業によっては、特定の資格を持っている人に対して資格手当を支給したり、昇給や昇進の条件としていたりする場合があるからです。
特に「一級塗装技能士」は、塗装に関する高度な技術と豊富な知識を証明する国家資格であり、給与アップに直結しやすい代表的な資格と言えます。取得するには実務経験が必要で、合格率も50パーセントから60パーセントていどと容易ではありませんが、その難易度ゆえに市場価値が高く評価されます。企業によっては、一級塗装技能士に対して月々数千円から1万円ていどの資格手当を支給するケースが多く見られます。中には、1級で5万円、2級で1万円といった高額な手当を支給する例もあります。厚生労働省の調査では、技術・技能手当などを支給している企業は全体の約47.7パーセントという結果もあります。
シーリングや防水など、塗装以外のスキルも身につける
「一級塗装技能士」のような資格取得に加え、塗装工事と関連性の高い他の技術を習得することも、給与アップに有効な手段です。特に、建物のメンテナンスにおいて塗装と密接に関わる「シーリング工事」や「防水工事」のスキルは、職人としての市場価値を大きく高めます。
たとえば、シーリング工事の技術があれば、外壁塗装と同時にシーリングの打ち替えや増し打ちを提案・施工できるようになります。顧客にとっては、足場設置費用が一度で済むため、コスト削減や工期短縮になり、顧客満足度向上につながります。複数の工事を一括で請け負うことで、工事単価の向上も見込めます。
また、屋上やベランダなどの防水工事の技術も同様に有効です。防水と塗装の知識や技術を兼ね備えることで、対応できる工事の範囲が広がり、顧客の様々なニーズに応えられる人材となります。
現場をまとめるリーダーシップや管理能力を磨く
現在の職場で給与アップを目指すには、技術力に加え、現場をまとめるリーダーシップや管理能力を磨くことも非常に重要です。企業では、現場を円滑に進めるために職長や現場代理人といった役職を設置していることが多く、これらの役職に就くことで、役職手当の支給や基本給のベースアップが見込めます。
職長は作業グループのリーダーとして、作業員への指揮監督、安全管理、品質管理など、現場全体のマネジメントを担います。現場代理人は、経営者の代理として工程管理や関係各所との調整など、より広範な管理業務を行います。これらの役割を果たすためには、単に作業が速い、上手いというだけでなく、後輩への的確な技術指導やチーム内の円滑なコミュニケーションを促進する能力が求められます。
自身の貢献度を整理し、会社と待遇交渉を行う
これまでご紹介したスキルアップや能力向上に加え、現在の会社で給与アップを実現するためには、自身の貢献度を適切に整理し、それを踏まえて会社と待遇交渉を行うことが重要です。
まずは、給与アップに値する具体的な行動と成果として、自身の貢献度を整理し、リストアップしましょう。
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これまでに担当したプロジェクトの数やその品質、顧客からの感謝の声といった実績
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提案によるコスト削減や工期短縮など、具体的な数値や客観的な事実に基づいた貢献
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取得した資格や習得した新しい技術
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後輩育成への取り組み
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チーム内でのリーダーシップ発揮など
これらの貢献度を整理し、自己評価シートや面談資料としてまとめることも有効です。これらの資料は、自身の価値を会社に明確に伝えるための重要な根拠となります。
交渉に臨む際は、会社の評価制度や昇給のタイミングを事前に把握しておきましょう。その上で、上司との面談機会を設定してもらうか、適切な時期に交渉を申し出ることが望ましいです。面談では、整理した貢献度と希望する待遇を具体的に伝え、会社の業績や業界の賃金水準なども考慮に入れた上で、建設的に話し合う姿勢が大切です。自身の市場価値を客観的なデータで示すことで、要求の妥当性を高めることができるでしょう。
高年収を目指す選択肢「独立」を成功させるためのロードマップ
塗装職人が高年収を目指す上で、現在の職場でスキルアップや交渉を行う以外に、収入を大きく伸ばせる可能性を秘めた選択肢として「独立」があります。塗装業は一人親方としてスタートする人も多く、他の業種と比較して比較的独立しやすい分野とも言われます。
独立の大きなメリットは、収入の上限がなく、自身の努力や工夫次第で高年収を目指せる点、そして自分の理想とするスタイルで働ける点です。しかし、独立は単に技術があれば成功するほど甘くはありません。事業を継続的に発展させ、安定した高収入を得るためには、塗装技術はもちろんのこと、経営に関する知識、顧客を獲得するための営業・集客スキル、そして適切な資金管理能力など、多岐にわたる準備と努力が不可欠です。
独立のメリットと知っておくべきリスク
塗装職人が高年収を目指す上で魅力的な選択肢となる独立ですが、独立には大きなメリットがある一方で、当然ながらリスクも伴います。独立することで得られる代表的なメリットとして、まず「収入の上限がなくなる」点が挙げられます。会社員のように月々の給与が固定されているのではなく、自身の頑張りや工夫次第で得られる収入が青天井になる可能性があります。また、仕事の進め方や請ける案件を自分で決められる「裁量権の拡大」や、働く時間、休日などを比較的自由に調整できる「自由度の向上」も、独立の大きな魅力と言えるでしょう。
しかし、独立はメリットばかりではありません。「収入が不安定になる」ことは最も大きなリスクの一つです。仕事の受注が途切れれば収入はゼロになり、景気や市場の状況にも左右される可能性もあります。また、会社員と比べて社会的信用を得にくい(例:ローン審査など)といった側面や、本業である塗装作業に加えて事務作業や営業活動といった負担が増えることも覚悟が必要です。
技術力以外に不可欠な営業・集客スキル
独立後の塗装職人にとって、高品質な施工技術は独立後の大前提ですが、それと同等以上に、自ら顧客を見つけ契約を獲得する営業力と集客力が不可欠となります。会社員時代とは異なり、自身で顧客を開拓する必要があります。
効果的な集客方法にはいくつか種類があります。
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オンライン:ホームページやSNSでの実績紹介、Googleビジネスプロフィールへの登録
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オフライン:地域へのポスティングやチラシ配布、現場看板
そして最も重要なのは、既存顧客からの紹介やリピートであり、これは信頼獲得に繋がります。
顧客との信頼関係を築くには、丁寧なヒアリングで要望を聞き出す「聞く力」が大切です。また、専門家として分かりやすい説明や最適な提案を行う「提案力」も、契約に繋がる重要なスキルです。
競合との差別化を図り、お客様に選ばれる職人となるためには、得意な工法などを明確にするブランディング戦略も必要です。これらのスキルは、独立した塗装職人が事業を成功させ、より高い収入を得るために磨き続けるべき能力と言えるでしょう。
事業計画の立て方と資金繰りのポイント
独立して事業を成功させるためには、明確な事業計画の策定と、それを支える資金繰りの管理が不可欠です。まず、事業計画では、達成したい具体的な目標(例:年間売上〇〇円、獲得顧客数〇〇件)を設定し、その目標達成に向けた戦略(提供サービス内容、価格設定、効果的な集客方法など)を明確にすることが重要です。誰が見ても内容を理解し、共通認識が持てるような具体的な計画を立てることで、実行可能性が高まります。
次に、事業の収支を予測する収支計画書を作成します。これは、将来的な売上予測、経費予測、それに基づく利益予測を示す書類です。過去の実績や市場調査に基づいた現実的な数値を設定することで、計画の精度を高めることができます。独立初期は赤字となる期間も想定し、軌道に乗るまでの資金計画を立てる必要があります。
独立に必要な資金としては、作業道具や車両などの設備投資資金、当面の生活費を含む運転資金などが挙げられます。これらの資金は、以下のような方法を活用して調達することが考えられます。
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自己資金
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日本政策金融公庫や地方自治体の制度融資
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事業開始を支援する補助金・助成金
事業開始後も、作成した資金繰り表を定期的に確認し、お金の流れを把握することが重要です。予期せぬ出費に備えるためには、売掛金の早期回収を促したり、支払サイトを調整したりといった工夫に加え、常に一定の予備資金を確保しておくなどの資金管理を徹底する必要があります。
AIやドローンは塗装職人の仕事を奪う?最新技術との向き合い方
近年、様々な産業でAIやドローンといった先進技術の導入が進んでおり、塗装業界も例外ではありません。これらの技術革新が、将来的に塗装職人の仕事にどう影響するのか、仕事を奪われてしまうのではないかと不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、現状ではこれらの最新技術は人間の仕事を完全に代替するというよりも、塗装職人の業務をサポートし、効率や品質、安全性を向上させるためのツールとして活用され始めています。
具体的に塗装業界ではAIが、過去のデータに基づいて最適な塗装条件を提案したり、作業プロセスを最適化したりといった分野で活用され始めています。また、ドローンは高所の外壁や屋根などの点検に利用することで、足場を組む手間を省き、作業時間の短縮やコスト削減、そして何より高所作業における安全性の向上に大きく貢献しています。さらに、一部ではドローンによる特殊な塗装や、ロボットによる自動塗装なども実証実験段階にあり、特定の作業の効率化や品質の均一化を目指す動きも見られます。これらの技術は、職人が危険な作業を行うリスクを減らし、より専門的な判断や熟練の技術が必要な工程に集中できるよう、サポートする補助的な役割を担うことが期待されています。