外壁塗装におけるクレームは、業者にとって大きな悩みの種です。しかし、適切な対応をすることで、ピンチをチャンスに変え、顧客との信頼関係を深めることも可能です。本記事では、外壁塗装業者が直面しやすいクレーム事例とその具体的な対応策を解説します。
なぜ、外壁塗装業者にクレーム対応能力が求められるのか?
現在社会において、外壁塗装業者にクレーム対応能力が不可欠な能力として強く求められています。外壁塗装業者にクレーム対応能力が求められる理由は以下の通りです。
- インターネットの普及により、お客様からの評価や意見が瞬時に拡散されるため、一件の不適切な対応が企業の評判を大きく損なう可能性がある
- お客様にとって、一生に何度もない高額な投資となるため、お客様の期待値がそもそも高い。わずかな食い違いでもクレームに繋がりやすい業界の特性があるため
顧客満足度が会社の評判とリピート率を左右する
クレームは、お客様の不満を解消し、結果的に企業の評価を高める重要な機会となります。迅速かつ誠実な対応を行うことで、お客様が抱える問題に寄り添い、信頼関係を深めることにつながるでしょう。顧客の立場に立って、問題解決に努める姿勢は、単なるトラブルにとどまらず、最終的な顧客満足度の向上に繋がると言えます。
現代では、インターネット、SNS、口コミサイトの普及により、お客様一人一人の体験談は瞬く間に拡散されます。特に、クレーム発注時の対応品質は、企業のオンライン上の評判に直結し、新たな顧客獲得の可否を大きく左右します。高評価の口コミは直力なツールとなりますが、逆に不適切な対応は大きな機会損失に繋がりかねません。
不適切な初期対応が招く経営上のリスクとは
クレームに対する初期対応の誤りは、企業経営に深刻なリスクをもたらします。まず、顧客の不満はSNSや口コミサイトを通じて瞬時に拡散され、企業の評判を著しく低下させる可能性があります。これにより、新規顧客の獲得機会が大幅に減少し、将来の収益に悪影響を及ぼします。
また、初期段階での対応が不適切だと、話し合いでの解決が困難となり、法的な紛争や訴訟に発展する可能性が高まります。その結果、高額な弁護士費用や賠償金といった直接的な金銭的コストに加え、対応に費やす時間的コストも膨大です。
さらに、クレーム対応の矢面に立つ社員には大きな精神的負担がかかるため、モチベーションの低下や離職につながる恐れもあります。これは組織全体の士気や生産性を下げる危険性をはらんでいます。一度失われた信用は容易には回復せず、金融機関や協力業者からの信用を失うことにもつながりかねません。企業のブランドイメージが毀損し、長期的な経営に悪影響を及ぼすため、適切な初期対応が極めて重要です。
クレームはサービス改善と組織成長の貴重なヒントになる
クレームは単なる苦情ではなく、お客様からの貴重なフィードバックとして捉えることが重要です。ネガティブな事象として避けがちですが、サービス改善と組織成長の大きな機会と認識しましょう。
お客様が時間と労力をかけて伝えてくださる不満の中には、貴社では気づきにくい業務プロセスの欠陥が隠されています。例えば、以下の点が挙げられます。
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提案方法
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施工管理
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アフターフォロー
さらに、表面化していないお客様の潜在的なニーズが示されていることも少なくありません。これらのクレームを深く分析することは、顧客の声を反映した商品改善や、事前に回避できる体制の強化につながります。
クレームの原因を深く分析し、再発防止策を具体的に講じるプロセスは、組織の成長に以下の機会をもたらします。
クレーム対応がもたらす組織成長の機会
成長の側面 |
具体的な効果・機会 |
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社員一人ひとりの成長 |
問題解決能力の育成 |
組織全体の成長 |
知見の共有、実践を通じたスキルアップと対応力強化 |
企業文化の醸成 |
顧客満足度向上、他社にはない強固な信頼関係の構築 |
クレーム対応研修などを通じて実践的に学ぶことも有効です。クレームを恐れずに真摯に向き合い、改善を繰り返す企業文化を醸成することは、結果として顧客満足度を向上させ、他社にはない強固な信頼関係を築く礎となります。
【事例別】外壁塗装で頻発するクレームの原因と根本的な問題点
外壁塗装の現場では、残念ながらクレームが発生することは避けられない問題です。しかし、これらのクレームは特別なケースというわけではなく、多くの業者が直面しうる身近な問題とも言えます。本章では、外壁塗装で頻繁に発生するクレームを具体的な事例とともに解説し、表面的な事象の裏に潜む根本的な原因を掘り下げていきます。
認識のズレが生じる要因 |
対応策 |
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小さな色見本と実物の色のギャップ |
A4サイズ以上の大きな塗り板サンプルを用いた実際の外壁での確認 |
太陽光や天候による色の印象の変化 |
さまざまな時間帯や天候下での確認の推奨 |
お客様の曖昧なイメージ |
詳細なヒアリングによるイメージの具体化 |
専門的な色の見え方に関する説明不足 |
面積効果や光の影響についての事前の丁寧な説明 |
丁寧なすり合わせ工程の省略 |
上記の対策を組み合わせた、段階的な合意形成 |
「仕上がりの色がイメージと違う」コミュニケーション不足による認識のズレ
外壁塗装において、「仕上がりの色がイメージと違う」というクレームは多く発生します。この問題の背景には、お客様が選んだ小さな色見本と、実際に外壁に塗装された際の色の見え方に生じるギャップが大きく関係しています。これは「面積効果」と呼ばれる現象で、同じ色であっても面積が大きくなるほど、明るい色はより明るく、暗い色はより暗く感じられる特性があるためです。さらに、太陽光の当たり方や天候の変化によっても、色の印象は大きく変わります。
お客様が抱く「こんな感じの色が良い」という曖昧なイメージと、塗装業者が提示する具体的な色番号との間には、認識のズレが生じやすい傾向にあります。このズレの根本的な原因は、面積効果や光の当たり方など、専門的な色の見え方に関する事前の説明不足にあります。
「すぐに塗膜が剥がれてきた」施工品質や下地処理の問題
「すぐに塗膜が剥がれてきた」というクレームは、外壁塗装における施工品質や下地処理に根本的な問題がある場合に多く発生します。塗膜の早期剥離の主な原因は、下地処理の不備にあります。具体的には、以下の点が挙げられます。
塗膜早期剥離の主な原因(下地処理関連)
メーカーが指定する塗料の希釈率や乾燥時間を守らないことも、塗膜の性能を著しく低下させます。特に、工期短縮を目的として乾燥時間を短縮すると、塗膜が完全に硬化せず、耐久性を損なう致命的な施工不良につながりかねません。
外壁塗装の基本である3回塗りが守られていないケースも散見されます。この3回塗りとは、具体的に以下の工程を指します。
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下塗り
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中塗り
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上塗り
中塗りを省略するなど、必要な塗膜の厚みを確保しない手抜き工事は、建物の保護機能を損ない、早期の剥離を招く原因となります。
また、雨天や高湿度、低温時など、塗装に適さない気象条件下で施工を強行することも問題です。品質よりもスケジュールを優先する姿勢は、結果的に大規模な手直しや、お客様からの信頼失墜につながることを認識すべきでしょう。
「追加料金を請求された」見積もり内容と説明の不備
外壁塗装で「追加料金を請求された」というクレームは、見積もり内容の不明瞭さや説明不足が原因となることが少なくありません。
特に、見積書においてお客様との認識のずれを引き起こしやすい不明瞭な表現には、以下の点が挙げられます。
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「一式」といった曖昧な表現
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塗料の種類の不明確さ
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具体的な塗装範囲の不記載
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足場設置や下地補修などの付帯工事の詳細の欠如
これらの記載不足がある見積書は、お客様との間で工事範囲の認識のずれを引き起こしやすい傾向にあります。
また、契約時に、想定外の劣化箇所の発見など、追加料金が発生する可能性のある具体的な条件について、十分に説明がなされていないケースも問題視されます。その際の連絡方法、再見積もりの要否、お客様からの合意形成といった重要なプロセスが共有されていないと、後々お客様が不信感を抱く原因となります。お客様が納得するまで説明がなされていないことが、トラブルの温床となります。
「近隣から苦情が入った」現場管理と配慮の欠如
外壁塗装工事は、お客様宅だけでなく、近隣住民の方々との関係にも大きく影響します。そのため、工事中の近隣への配慮が欠けると、思わぬクレームにつながる可能性があります。
よくある苦情事例として、以下のような点が挙げられます。
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塗料の飛散
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高圧洗浄機の騒音
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職人の車両駐車マナー
例えば、塗料の飛散は、風の影響で広範囲に及んだり、駐車中の車に付着したりするケースがあります。高圧洗浄機使用時の騒音については、作業時間帯への無配慮が近隣の迷惑となることも少なくありません。
こうしたトラブルの根本原因は、現場管理の甘さと近隣住民への配慮不足にあります。具体的には、塗料飛散防止ネットやシートの設置が不徹底であったり、車両養生が不十分であったりする点が挙げられます。また、風速や環境に応じた作業計画の不足も飛散リスクを高めます。
【実践】信頼を損なわないクレーム対応の具体的な5ステップ
外壁塗装におけるクレームは、時に感情的になりがちで、その対応に戸惑うことも少なくありません。しかし、クレーム対応は単なる問題の「火消し」で終わらせるべきではありません。むしろ、お客様の不満に真摯に向き合い、解決することで、失われた信頼を再構築し、より強固な関係性を築く絶好の機会と捉えるべきです。
ステップ1:初期対応-まずは真摯な謝罪と傾聴に徹する
お客様からクレームの連絡を受けたら、まず最初に真摯な謝罪の姿勢を示すことが重要です。「この度はご不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません」といった気持ちを込め、言い訳や原因究明を先行させることなく、相手の感情に寄り添いましょう。
次に、お客様の話を途中で遮らず、最後まで丁寧に耳を傾ける「傾聴」に徹します。傾聴の基本は、結論を急いだり、聞き手が話をまとめようとせず、相手を尊重する姿勢で臨むことです。適度な相槌や頷き、アイコンタクトを交えながら、メモを取り、お客様の言葉の背景にある感情や状況を正確に理解するよう努めましょう。この真摯な態度が伝われば、お客様の感情を落ち着かせ、冷静に話ができる信頼関係の土台が築かれるでしょう。
この初期段階で避けるべきNG行動は次のとおりです。
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原因を一方的に決めつけること
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他者に責任転嫁すること
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安易に「すべて対応します」といった無責任な約束をすること(これはさらなる不信感につながるリスクをはらみます)
このステップの目的は、問題の即座の解決ではなく、お客様の感情に寄り添い、今後の話し合いを進めるための信頼を築く点にあると認識しましょう。
ステップ2:事実確認-お客様と現場状況を客観的に把握する
お客様の心情に寄り添い、信頼関係の土台を築いた次のステップは、クレームの事実を客観的に把握することです。お客様へのヒアリングでは、感情的な表現と事実を明確に区別し、以下の点を意識してクレームの内容を具体的に聞き出すようにしましょう。
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感情的な表現と事実を明確に区別すること
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5W1H(いつ、どこで、何が、どのように、なぜ、誰が)を意識して具体的に聞き出すこと
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時系列で状況を整理すること
これにより、事象が発生した状況を漏れなく整理し、お客様との認識のずれを防ぐことができます。
ヒアリング後には、担当者が必ず現地に赴き、お客様立ち会いのもとで現状を確認します。指摘箇所は、写真や動画で多角的に撮影し、客観的な証拠として記録を残してください。その上で、社内に保管されている施工報告書、使用した塗料の製品データ、施工日の天候記録といった関連情報と現場の状況を詳細に照合し、原因究明のための情報を集めます。
ステップ3:解決策の提案-具体的かつ誠実な改善案を複数提示する
事実確認を通じて問題が明確になったら、次はお客様に具体的な解決策を提案する段階です。この際、一方的に解決策を押し付けるのではなく、お客様に複数の選択肢を提示することが重要です。お客様自身に選んでいただくことで納得感を得やすくなり、問題解決に主体的に参加していただく姿勢を示すことができます。
提案には、以下の要素を必ず含めるようにしましょう。
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原因の誠実な説明: なぜクレームが発生したのか、その根本原因を正直に伝えます。「弊社の確認不足が原因です」のように、責任を明確にする姿勢が信頼につながります。
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具体的な是正方法とスケジュール: 問題をどのように解決するのか、具体的な手法と完了までの目安を提示します。「つきましては、来週中に該当箇所を再塗装します」といった形で明確に伝えます。
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費用負担の明確化: 費用が誰の負担になるのかを明確にします。会社側に原因がある場合は、「費用はもちろん弊社で負担します」と明言し、お客様の金銭的な不安を解消することが大切です。
状況に応じて、全面的な再施工、部分的な修正と値引き、あるいは将来的なメンテナンスサービスの無償提供など、お客様の要望や負担を考慮した複数の解決策を用意することが、信頼回復の鍵となります。最終的に、提案内容は必ず書面に残し、お客様と合意内容を共有しましょう。これにより、口約束による「言った言わない」のトラブルを防ぎ、会社の誠実な姿勢を示すことができます。
ステップ4:是正対応と報告-迅速な再施工と丁寧な進捗連絡
お客様と合意した再施工や補修といった解決策は、可能な限り迅速に実行することが重要です。対応のスピードは、お客様が抱える不信感を払拭し、貴社の誠意を示す上で不可欠な要素となります。迅速な施工は顧客の利便性を高め、問題を早期に解決することで、お客様の不安を軽減し、信頼回復につながります。
再施工に取りかかる際は、以下の具体的なスケジュールをお客様に明確に伝え、今後の見通しを共有することが重要です。
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いつ作業を行うのか
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誰が作業を担当するのか
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どのような作業を行うのか
また、是正対応の作業中も、「本日の作業はここまで進みました」「明日はこの作業を行います」といった形で、こまめに進捗を報告するよう心がけてください。完了までのプロセスを透明化することで、お客様の不安を解消し、誠実な対応を印象付けられます。対応完了後には、必ずお客様に立ち会いのもとで仕上がりを確認してもらい、納得いただけたか最終確認を行うことが大切です。
ステップ5:アフターフォロー-信頼回復に向けた長期的な関係構築
クレームに対する是正対応が完了した後も、お客様との関係性は終わりではありません。むしろ、ここからが「真の信頼回復」と、その先の長期的な関係構築の始まりです。お客様との信頼関係を深めるため、以下の点を目安に丁寧な確認を心がけましょう。
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時期の目安: 対応完了後、1週間後、1ヶ月後
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確認方法: 電話や訪問
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確認内容: 施工箇所の不具合が完全に解消されているか、他に気になる点はないか
お客様が「いつでも頼れる」と感じられるよう、継続的な確認を心がけることが重要です。
定期点検の案内や、住まいに関する情報提供を継続的に行い、会社として長期的に顧客をサポートする姿勢を示すことも有効です。お客様は貴社からの継続的なサポートを感じ、安心感を抱かれるでしょう。
会社全体の対応力を強化する組織的な仕組みづくり
クレーム対応が特定の社員のスキルや経験に依存する「属人化」は、組織にとって大きなリスクです。担当者によって対応品質にばらつきが生じるだけでなく、知識や対応ノウハウが社内に蓄積されにくく、担当者の不在時に業務が滞ったり、スムーズな引き継ぎが困難になったりする可能性があります。さらに、クレームに至った経緯や原因が正確に共有されず、問題の再発防止が難しくなることも少なくありません。
個人の対応スキルにとどまらず、会社全体でクレームに対応する文化と体制を築くことは、長期的な信頼の獲得と企業の持続的な成長に不可欠です。組織全体で対応力を高めることで、顧客満足度の向上はもちろん、従業員一人ひとりが自信を持って業務に取り組めるようになります。
本章では、このような組織的な仕組みづくりとして、以下の具体的な方法について解説します。
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クレーム対応マニュアルの作成
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社員向けロールプレイング研修の実施
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現場と営業の情報共有体制の構築
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クレーム事例共有会の開催
これらの仕組みを導入することで、会社全体の対応力を底上げし、いかなるクレームにも冷静かつ一貫して対応できる体制を構築できるでしょう。
焦らず対応できる「クレーム対応マニュアル」作成のコツ
クレーム対応の属人化を防ぎ、会社全体で一貫した品質を維持するためには、「クレーム対応マニュアル」の作成が不可欠です。このマニュアルには、クレームを「信頼回復の機会」と捉える基本方針を明記し、担当者が常に冷静に対応できる心構えを示すことが重要です。
クレーム対応の具体的なフローでは、各段階における役割と対応内容を明確にすることで、スムーズな進行を促します。
これにより、担当者ごとの対応のばらつきを防ぎます。
また、過去のクレーム事例を基にした「想定問答集」を盛り込むことも有効です。「仕上がりの色が違う」「塗膜が剥がれた」といった頻出するクレームに対しては、「まず確認すべきこと」「お客様にかけるべき言葉」「言ってはいけないNGワード」などを具体的に記載し、社員が冷静に対応できるよう促しましょう。
社員の自信を育てるロールプレイング研修の実施方法
クレーム対応における社員の自信を育み、実践的なスキルを向上させるには、ロールプレイング研修の導入が非常に有効です。研修の目的を「実践力の向上」と「精神的な耐性の強化」と明確に共有し、社員が主体的に取り組める環境を整えましょう。
研修のシナリオは、実際に社内で発生したクレーム事例を参考に、よりリアルな状況を複数パターン想定して作成することが重要です。これにより、社員は現場での対応を具体的にイメージできるようになります。実践時には、「お客様役」「担当者役」「観察者役」の三役に分かれ、それぞれが役割を演じます。
以下に、各役割とその主なポイントをまとめます。
役割 |
ポイント |
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お客様役 |
感情的になりすぎず、あくまで現場で想定される顧客像を演じる。 |
担当者役 |
クレーム対応のスキルを実践的に試す。 |
観察者役 |
ロールプレイングの様子を客観的に観察し、フィードバックの材料とする。 |
お客様役は、感情的になりすぎず、あくまで現場で想定される顧客像を演じるよう事前に指示しておくと、より実践的な練習が可能です。
現場と営業の情報格差をなくす円滑な情報共有体制の構築
外壁塗装の現場では、営業担当者と職人の間で情報格差が生じると、クレームにつながる大きな原因となることがあります。たとえば、お客様からの要望や懸念事項が営業担当者から現場に正確に伝わらず、施工に反映されないケースです。また、現場で予期せぬ問題や作業の遅延が発生した場合に、その情報が営業担当者に共有されず、お客様への説明が遅れてしまうリスクも考えられます。このようなコミュニケーション不足は、お客様の不信感を招くことになりかねません。
このような情報格差を解消し、リアルタイムでの情報共有を可能にするには、ITツールの導入が効果的です。具体例として、「現場クラウドConne」「ANDPAD」「ダンドリワーク」「SITE」といったビジネスチャットや写真共有アプリを活用することで、現場の職人が進捗状況を写真や動画で手軽に撮影し、営業担当者へ共有する仕組みを構築できます。これにより、お客様からの問い合わせにも迅速かつ正確に回答できるようになるでしょう。
さらに、施工前、施工中、施工後に「営業担当者と現場の職人による合同ミーティング」を定例化することも重要です。このミーティングでは、顧客情報、図面、仕様書、お客様からの特記事項や注意点などを全員で確認し、認識のずれをなくすことを徹底します。
また、共有すべき情報を標準化するための「報告・連絡・相談テンプレート」の活用も有効です。テンプレートには、以下のような項目を設定することで、情報の抜け漏れを防ぎ、誰が見ても現場の状況を把握できる体制が整います。
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本日の作業内容
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明日の予定
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顧客からの特記事項
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懸念点
これにより、チーム全体の連携が強化され、クレームの未然防止にもつながるでしょう。
失敗を次に活かす「クレーム事例共有会」の開催
クレーム対応における個人の失敗体験は、担当者だけに留めるのではなく、組織全体の貴重な財産として捉えることが重要です。同じ失敗を繰り返さないための前向きな学びの場として、「クレーム事例共有会」を定期的に開催しましょう。
この共有会は、営業、職人、事務など、部署の垣根を越えたメンバーが参加することが理想です。月1回、1時間程度の会議としてケーススタディを共有すると効果的です。
実際に発生したクレーム事例については、以下の項目に沿って議論を進めることで、原因を深掘りし、具体的な再発防止策を立案できます。
クレーム事例共有会における議論の進め方
共有会を成功させる最大のコツは、失敗を報告した社員を責めない「心理的安全性」を確保することです。社長が率先して、犯人探しではなく未来志向の改善策を議論する雰囲気を作り出すことが肝要です。
また、共有会で決定した再発防止策は、その場限りで終わらせない仕組みを構築しましょう。議論の結果は必ず議事録に残し、クレーム対応マニュアルや業務チェックリストに反映させるなど、組織のルールとして定着させることが大切です。これにより、知識と経験が組織全体に蓄積され、対応能力の継続的な向上につながるでしょう。
そもそもクレームを発生させないための予防戦略
外壁塗装におけるクレームは、発生後の適切な「対応」が重要であることはもちろんですが、そもそも「発生させない」ことが、より本質的な解決策となります。クレームが起こってから対応に追われるよりも、未然に防ぐことで顧客満足度の最大化につながり、結果として従業員の負担も軽減されるでしょう。
予防的な取り組みは、業務効率の改善やコスト削減にも直結し、会社の利益確保に大きく寄与します。また、従業員一人ひとりがお客様との信頼関係を築く意識を高めることは、組織全体の意識向上にもつながるでしょう。
契約前の認識合わせを徹底する(色見本・見積もり項目)
外壁塗装におけるクレームを未然に防ぐには、契約前にお客様との認識合わせを徹底することが非常に重要です。特に色の選定では、「仕上がりの色がイメージと違う」といった認識のずれが発生しやすいため、細心の注意を払う必要があります。
色選びの際には、同じ色でも、塗る面積の大小によって明るさが異なって見える「面積効果」が生じることを、丁寧に説明しましょう。例えば、明るい色は広い面積に塗ると、より明るく見える傾向があります。お客様には、A4サイズ以上の塗り板サンプルや試し塗りなどを利用して、実際に外壁で色を確認してもらう機会を設けることが重要です。さらに、晴天時と曇天時、朝・昼・夕方など、光の条件が変わると色の見え方も異なることを考慮に入れてもらい、納得できるまで色のイメージをすり合わせましょう。
見積書では、「一式」といった曖昧な表記は避け、詳細を明確に記載しましょう。具体的には、以下の項目を詳細に示してください。
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使用する塗料のメーカー名、製品名、缶数
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作業内容(足場設置、高圧洗浄、下地処理、下塗り、中塗り、上塗りの3回塗りといった各工程)
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費用内訳
専門用語を避け、お客様に分かりやすい言葉で丁寧に説明することが、信頼関係を築く上で重要です。
施工中の不安を解消する「こまめな進捗報告」のルール化
外壁塗装工事期間中のお客様の不安を解消し、信頼関係を維持するためには、「こまめな進捗報告」が不可欠となります。社内で報告のルールを統一し、例えば毎日の作業終了後や、高圧洗浄完了時、下塗り完了時といった主要な工程の節目で報告を行うよう徹底することが重要です。
報告手段については、お客様の希望に合わせて柔軟に対応することが重要です。
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LINE
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交換日記
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施工管理アプリ(「ANDPAD」など)
これらの手段を活用することで、写真や動画を添付して視覚的に進捗を伝えることが可能です。これにより、お客様は現場の状況をリアルタイムで把握し、安心感を高められるでしょう。
近隣トラブルを防ぐための丁寧な事前挨拶と現場養生
外壁塗装工事は、お客様だけでなく近隣住民の方々の生活にも影響を与えるため、事前の配慮が非常に重要です。トラブルを未然に防ぐためには、工事開始前に近隣住民へ丁寧な挨拶回りを行うことが不可欠です。
事前挨拶のポイントを以下に示します。
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挨拶の範囲
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両隣の家
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向かいの家
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裏の家
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その他、影響が及ぶ可能性のある範囲
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挨拶のタイミング
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工事開始の1週間から3日前
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準備するもの
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工事期間や緊急連絡先を明記した挨拶状
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粗品(タオル、スポンジ、ラップ、お米など)
これらのポイントを踏まえ、誠意をもって挨拶を行うことが望ましいです。
また、塗料の飛散や高圧洗浄の水しぶきによる苦情を防ぐため、徹底した現場養生が不可欠です。隣家の車両や植木、外構などを汚さないよう、養生シートで保護し、足場には飛散防止ネットを隙間なく設置することが重要です。さらに、工事期間中の職人のマナーも近隣住民の心証に大きく影響します。作業車両の駐車場所への配慮、休憩中の会話や喫煙マナーなど、基本的なルールを社内で徹底することが求められます。