外壁のメンテナンスやリフォームにおいて、ドローンの活用が注目されています。これまで職人が直接行っていた高所での作業を、ドローンが代行することで、安全性向上やコスト削減に繋がる可能性があります。しかし、導入には初期費用や運用スキルなど、検討すべき課題も存在します。そこで本記事では、外壁業者がドローンを導入するメリットとデメリットを詳しく解説します。
なぜ今、外壁調査にドローン活用が求められるのか?
近年、外壁調査の方法としてドローン活用が急速に注目されています。これは、従来の方法が抱えるいくつかの課題を解決する糸口として期待されているためです。これまで一般的な手法であった足場を組んでの調査は、設置と時間とコストがかかり、作業員の高所での安全確保も重要な課題でした。また、多くの人手を要するため、効率化も求められています。こうした状況の中、ドローンはこれらの課題に対し、新たな可能性をもたらす技術として捉えられています。外壁調査にドローン活用が求められる背景には、建設業界全体が直面する人手不足や職人の高齢化、そして建築基準法改正による定期的な建物点検の必要性の高まりといった、複数の要因があります。
人手不足と職人の高齢化という業界全体の課題
建設業界全体で人手不足が深刻化しており、外壁調査を行う職人においても例外ではありません。技能者の数は減少傾向にあり、高齢化も著しく進んでいます。例えば、2024年のデータでは、建設業就業者全体において55歳以上が約37%を占める一方、29歳以下は約12%に留まっており、全産業と比較しても高齢化率が高い状況です。このような背景から、長年培われてきたベテラン職人の技術やノウハウの継承が大きな課題となっています。人手不足と高齢化が進むことで、従来の足場を使った調査や、複数の人員で行う打診調査の実施体制を維持するのが難しくなっています。ドローンによる外壁調査は、少ない人員でも効率的に広範囲をカバーできるため、こうした構造的な課題の解決に貢献できると期待されています。
建築基準法改正によるドローン点検への追い風
建築基準法では、特定の建築物に対し定期的な調査・報告が義務付けられており、外壁の劣化状況調査はその重要な項目の一つです。従来の調査は足場などを用いた打診調査が中心でしたが、時間、コスト、高所作業の安全性が課題でした。近年、建築基準法に関連する動きや新技術活用の推奨を受け、定期報告制度における外壁調査方法に変化が見られます。国土交通省による赤外線装置を用いた外壁調査ガイドライン整備により、一定条件下で適切に実施された赤外線調査が正式な調査方法として認められましたが、これにはドローン搭載の赤外線カメラ調査も含まれます。ドローンは高所を効率的に調査でき、目視・打診が難しい劣化も画像データで捉えます。ドローンによる赤外線調査が法的に認められたことは、外壁点検におけるドローン普及の大きな推進力です。
外壁業者がドローン調査を導入する5つのメリット
ドローンによる外壁調査は、従来の調査方法が抱える多くの課題を解決する可能性を秘めています。
例えば、足場の設置が不要になることで時間とコストを大幅に削減できるほか、高所での危険な作業を減らし、従業員の安全性を高める効果が期待できます。また、ドローンは少人数でも効率的に広範囲を調査できるため、人員体制の課題にも貢献します。
メリット1:足場が不要に!工期短縮と大幅なコスト削減
ドローンを活用した外壁調査における最大のメリットの一つは、高所にアクセスするための足場が基本的に不要となる点です。従来の調査方法では、建物の全体または広範囲の調査に際して、足場を設置・解体する必要がありました。これには多大な費用と時間がかかります。足場費用は調査費用そのものを上回るケースも少なくなく、設置・解体作業のための人件費や材料費も発生します。
ドローンを使用すれば、これらの足場にかかるコストを大幅に削減できます。また、足場の設置・解体にかかる物理的な時間をなくせるため、調査全体の工期を大幅に短縮することが可能です。このコスト削減と工期短縮は、顧客への提供価格の低減に繋がるだけでなく、より多くの案件を受注できる機会を生み出す可能性も秘めています。
メリット2:高所作業のリスクをなくし、従業員の安全を確保
外壁調査における従来の調査方法では、足場やゴンドラ、ロープアクセスなどを使用し、作業員が直接高所に上る必要がありました。こうした高所での作業には、常に墜落や転落といった重大な労働災害のリスクが伴います。どんなに安全対策を講じても、そのリスクを完全にゼロにするのは難しいのが実情です。
しかし、ドローンを導入することで、この高所作業に伴うリスクを根本的に解消できます。ドローンは地上から遠隔操作するため、作業員は安全な場所にいながら、建物の高所部分やアクセス困難な箇所を詳細に点検することが可能です。これにより、作業員の安全を確実に確保し、事故発生のリスクを最小限に抑えることができます。
メリット3:少人数で効率的に実施でき、人手不足の解消に貢献
従来の外壁調査は、足場の設置や打診調査のために複数の作業員が必要でした。特に広範囲の調査の場合、より多くの人員と時間を要するため、慢性的な人手不足に悩む外壁業者にとって大きな負担となっていました。
ドローンを活用した調査は、基本的に操縦者と補助者のわずか1〜2名で実施できます。準備から調査、後片付けまでにかかる時間を全体的に短縮できるため、一人あたりの生産性が大幅に向上します。
少ない人員でより多くの現場を効率的に対応できるようになるため、限られた人材を有効活用し、人手不足の緩和に貢献することが期待できます。ドローン導入は、業務効率化と人員配置の最適化を同時に実現する手段と言えるでしょう。
メリット4:赤外線カメラ等で目視では困難な劣化も可視化
ドローンに赤外線カメラを搭載することで、外壁の劣化状況をより詳細かつ客観的に把握できます。赤外線カメラは、外壁表面のわずかな温度差を捉えることが可能です。例えば、タイルの浮きや剥離箇所、あるいは雨水が浸入している部分は、周囲と温度が異なることが多く、これを可視化できます。これにより、目視だけでは発見が困難な劣化の兆候を早期に発見できる可能性が高まります。
可視化された温度データは、劣化の進行度合いを判断する重要な根拠となり、より正確な診断や効果的な修繕計画の立案につながります。また、初期段階の微細な劣化も捉えられるため、事前の予防保全にも有効です。赤外線カメラだけでなく、高解像度の可視光カメラを搭載すれば、微細なクラック(ひび割れ)なども鮮明に撮影でき、劣化箇所の特定精度がさらに向上します。これらの客観的なデータは、顧客への報告や提案の信頼性向上にも大きく貢献するでしょう。
メリット5:客観的なデータで顧客の提案力と信頼性が向上
ドローンで撮影される高解像度の静止画や動画、赤外線サーモグラフィ画像は、外壁の劣化状況を非常に鮮明かつ具体的に捉えることができます。これらの視覚的なデータを顧客に直接提示することで、言葉だけでは伝わりにくい劣化の範囲や深刻度を容易に共有できます。例えば、目視では判別が難しい微細なひび割れや、赤外線画像によって可視化されたタイルの浮き、雨水の浸入が疑われる箇所の温度差などを、根拠となる画像とともに説明できます。
また、ドローンで収集した調査データは、数値化やレポート化が可能です。これにより、診断結果や修繕提案に客観的な根拠を持たせることができます。データに基づいた丁寧な説明は、顧客の不安を軽減し、提案内容への納得感を高める上で大きな力となります。
導入前に押さえるべきドローン調査のデメリットと対策
外壁調査におけるドローン活用は、コスト削減や安全性向上など、多くのメリットをもたらす画期的な技術です。しかし、導入を検討するにあたっては、その利点だけでなく、事前に把握しておくべきデメリットも存在することを理解しておく必要があります。デメリットを認識し、適切な対策を講じることで、ドローン調査のポテンシャルを最大限に引き出し、実際の業務に効果的に組み込むことが可能になります。
デメリット1:機体やソフトの導入・維持にかかるコスト
ドローン外壁調査の導入にあたり、まず考慮すべきは機体や関連ソフトウェアの費用です。高性能な産業用ドローン本体に加え、外壁の状態を詳細に把握するための高解像度カメラや赤外線カメラ、撮影データを解析するための専門ソフトウェアなどが必要となり、これらを揃えるにはある程度の初期投資が発生します。写真測量用のドローンシステムで約300万円から、さらに高機能なシステムでは1,000万円以上となるケースもあります。
導入後も、継続的な維持費がかかります。具体的には、バッテリーの交換費用、定期的な機体メンテナンスや修理費用、そしてソフトウェアの年間ライセンス料やアップデート費用などです。長期的に安定してドローンを運用していくためには、これらのランニングコストも事前に把握しておく必要があります。
デメリット2:雨天・強風など天候によるスケジュールの制約
ドローンは精密な電子機器であるため、雨や雪、濃霧といった悪天候下での飛行は基本的に困難です。機体内部への浸水による故障リスクや、視界不良による危険性が高まるためです。また、風の影響を受けやすく、参考情報によると風速が5m/s以上になると、機体を安定させて正確な位置でホバリングしたり、狙い通りの構図で撮影したりすることが難しくなります。強風下での無理な飛行は、機体の破損や墜落といった事故につながる可能性も否定できません。
このように、ドローンによる外壁調査は天候に大きく左右されるため、事前に組んでいた調査スケジュールが急な悪天候で延期となったり、日程の再調整が必要になったりする可能性が常に伴います。調査が遅延した場合、顧客への説明責任が発生するほか、その後の修繕工事など全体の工期に影響を及ぼす可能性も考慮しておく必要があります。
デメリット3:打診調査は不可!微細な浮きは確認できない
ドローンによる外壁調査は、主に搭載されたカメラ(可視光や赤外線)を用いた、遠隔からの非接触検査が中心となります。画像データからは外壁表面のひび割れや剥がれを、赤外線による温度差からは浮きや雨水浸入の可能性を判断します。しかし、従来の打診調査のように、テストハンマーなどを用いて外壁を直接叩き、その音や感触でタイルの浮きやモルタルの剥離を検知する方法は、ドローンでは原理的に実施できません。
そのため、表面からは視認しづらい微細な浮きや、タイルの内部で発生しているわずかな剥離など、打診でなければ検知が難しい劣化は、ドローン調査だけでは見逃してしまう可能性があります。国土交通省が定める赤外線装置を用いた外壁調査のガイドラインにおいても、打診調査との併用による確認が示唆されていることから、ドローン調査の限界がうかがえます。ドローン調査を導入する際は、このデメリットを理解し、必要に応じて部分的な打診調査など、他の調査方法と組み合わせることを検討する必要があるでしょう。
デメリット4:飛行禁止区域やプライバシー保護への法的配慮
ドローンを飛行させるにあたっては、「航空法」をはじめ、さまざまな法令を遵守する必要があります。特に注意が必要なのが、飛行禁止区域での飛行です。具体的には、空港周辺、人口集中地区(DID地区)、政府機関などの重要施設周辺などが飛行禁止区域に指定されています。これらの区域で飛行させる場合は、国土交通大臣の許可や承認が必要です。飛行が可能かどうかは、国土交通省が提供する公式マップなどで事前に必ず確認しましょう。
また、外壁調査で建物を撮影する際、意図せず隣接する建物や通行人が映り込み、プライバシーや肖像権の侵害となるリスクも考慮する必要があります。調査前に近隣住民へ周知を行う、撮影範囲に配慮する、記録した映像にモザイク処理を施すといった対策を講じる必要があります。
【徹底比較】ドローン調査と従来の足場・打診調査の違い
これまでは、外壁調査におけるドローンのメリットとデメリットを見てきました。ドローン調査の導入を判断する上で、従来の足場や打診による調査方法との違いを具体的に理解することは非常に重要です。両者を比較することで、それぞれの特徴や、どのようなケースでどちらの方法が適しているのかがより明確になります。
比較①【コスト】:総費用はどちらが安い?
ドローンによる外壁調査の大きな利点は、コスト削減効果です。従来の足場を必要とする調査方法と比較すると、その差は明らかです。ドローン調査では、高所作業に必要な足場の設置や解体費用が基本的にかからないため、総コストを大幅に抑えられます。足場費用は調査費用全体の大きな割合を占めるため、足場が不要になるだけで費用は大きく変わります。また、足場の設置や高所作業にかかる人件費、高所作業手当、保険料なども削減可能です。
一方、従来の足場・打診調査では、建物の規模が大きくなるほど足場設置費用がかさみ、多くの作業員が必要な打診調査の人件費も増加する傾向があります。外壁調査の費用相場を比較すると、足場が必要な場合は1㎡あたり1,700円〜2,400円程度ですが、ドローン赤外線調査の場合は1㎡あたり200円〜450円程度とされており、ドローン調査の方が大幅にコストを抑えられる場合が多いです。
建物の規模や形状、立地条件、調査内容によって費用は変動しますが、特に中高層の建物や広範囲の調査においては、ドローンを導入することによるコストメリットが大きいと言えます。
比較②【工期】:調査完了までのスピード感
外壁調査において、調査完了までのスピード感も重要な比較ポイントです。ドローンを活用する場合、高所作業に必要な足場を設置・解体する工程が基本的に不要となるため、調査開始から完了までの期間を大幅に短縮できます。ドローンは地上から効率的に広範囲を撮影できるため、短時間で必要なデータを収集することが可能です。これにより、全体の工期を圧縮し、迅速な対応が求められる案件にも柔軟に対応しやすくなります。
一方、従来の足場を用いた調査方法では、足場の設置場所の確認、部材の運搬、組み立て、そして調査後の解体といった一連の作業に時間を要します。特に、マンションや中高層ビルなど大規模な建物の場合、足場の設置だけで数日から1週間以上かかることも珍しくありません。建物の規模や形状、現場の立地条件によって足場設置にかかる時間は大きく変動し、それが調査全体の工期に直結します。ドローン調査も雨や強風などの天候に左右されるデメリットはありますが、足場設置・解体の工程がない分、一般的には従来の調査方法よりも短期間での完了が期待できます。
比較③【安全性】:作業員の事故リスク
外壁調査において最も重視すべき点の一つが、作業員の安全性確保です。従来の足場やゴンドラ、ロープを用いた調査では、作業員が直接高所で作業を行うため、常に墜落や転落といった重大な事故のリスクが伴います。また、高所からの部材や工具の落下は、地上にいる作業員や通行人、さらには建物居住者に被害を及ぼす可能性も否定できません。人為的なミスが発生しやすい現場環境であることも、リスクを高める要因となり得ます。
一方、ドローンによる調査では、作業員は基本的に地上に留まり、安全な場所から機体を遠隔操作します。これにより、前述した高所作業に伴う転落や落下物による事故のリスクを根本的に回避することが可能です。従業員の安全を最大限に守れる点は、ドローン導入の非常に大きな意義と言えます。
比較④【調査精度】:検知できる劣化の種類
外壁調査における「精度」は、どのような劣化をどれだけ正確に発見できるかという点で異なります。ドローン調査の場合、高解像度の可視光カメラや赤外線カメラを用いて非接触で広範囲を点検します。これにより、目視だけでは見落としやすい微細なひび割れや剥離、チョーキングといった表面的な劣化を鮮明な画像で捉えることができます。特に赤外線カメラは、タイルの浮きやモルタルの剥離部分に生じる表面温度のわずかな差を検知し、可視化できる点が大きな強みです。高さに関係なく外壁を正面から撮影できるため、高層部も詳細に確認できます。
一方、従来の打診調査は、テストハンマー等で外壁面を直接叩き、その音や手応えによって内部の浮きや剥離を判断する触覚・聴覚に頼る調査方法です。この方法では、ドローンでは検知が難しい0.1mm程度のわずかな浮きなど、微細な劣化の可能性を捉えることができます。ただし、その精度は調査員の経験や技量に大きく左右される側面があり、また高所や複雑な形状の部分では作業自体が困難になる場合があります。
比較⑤【人員体制】:必要なスタッフの数
外壁調査に必要な人員の数は、ドローンを用いる方法と従来の方法で大きく異なります。ドローンを活用した調査は、基本的にドローンの操縦者と安全確認を行う補助者の最低2名程度の少人数で実施が可能です。これにより、現場における人員配置の自由度が高まり、限られた人員を効率的に活用することができます。測量などの業務においても、ドローン測量は従来の方法に比べて必要な人員を大幅に削減できるメリットが指摘されています。
一方、従来の足場を用いた調査では、足場の設置や解体を行う作業員、そして実際に外壁を打診する調査員など、より多くの人員が必要になります。建物の規模が大きくなるほど、必要とされる人員も増加する傾向にあります。この人員数の違いは、そのまま人件費の差につながるだけでなく、現場での指揮系統や安全管理の複雑さにも影響します。ドローン調査は、少ない人員で広範囲をカバーできるため、人件費の抑制や現場管理の負担軽減に貢献し、結果として業務全体の効率化につながると言えるでしょう。
比較⑥【データ活用】:報告書の質と将来性
ドローンによる外壁調査で得られるデータは、報告書の質を高め、将来的なデータ活用にもつながります。ドローンに搭載されたカメラで撮影された高解像度の静止画や動画、赤外線サーモグラフィ画像は、外壁の劣化状況を詳細かつ客観的に記録したデジタルデータです。これらの視覚情報は、報告書に添付することで、劣化箇所やその範囲を顧客に分かりやすく示す強力な根拠となります。従来、目視や打診の結果は、調査員の記録に頼る部分が大きく、報告書の視覚的な分かりやすさや情報量には限界がありました。
一方、ドローンで取得したデジタルデータは、クラウドサービスなどを利用して一元管理しやすく、関係者間での共有も容易です。過去のデータと比較することで、経年変化の追跡や劣化の進行状況を把握し、より適切なメンテナンス計画の提案に活かせます。
比較⑦【立地条件】:調査可能な建物・場所の制約
ドローンによる外壁調査は、特定の立地条件によっては、飛行が制限される場合があります。特に注意が必要なのは、航空法で定められた飛行禁止区域です。具体的には、空港周辺や、総務省の国勢調査で指定される人口集中地区(DID地区)などがこれに該当します。DID地区は、原則として人口密度が1k㎡あたり4,000人以上、かつ隣接する地域の合計人口が5,000人以上という基準で指定されており、これらの区域でドローンを飛行させるには国土交通大臣の許可や承認が必要です。また、高圧線の近くや、建物が密集していてドローンの操縦スペースを確保するのが難しい場所なども、安全上の観点から飛行が困難となる場合があります。
一方、従来の足場を用いた調査では、建物の周囲に足場を組み立てるための十分なスペースが必要不可欠です。敷地が狭く隣接する建物との距離が非常に近い場合や、調査対象の建物が道路に面しており、足場を組むことで交通の妨げになるような立地では、足場自体の設置が難しいケースも見られます。
調査方法 |
主な制約 |
---|---|
ドローン調査 |
空域の制限(飛行禁止区域など) |
足場調査 |
地上のスペース制限 |
比較⑧【法的要件】:建築基準法12条点検への適合性
建築基準法第12条に基づく定期報告制度では、特定建築物等の所有者や管理者に、定期的な調査・報告が義務付けられています。この調査項目には外壁の劣化状況も含まれており、建物の安全性を維持する上で重要視されています。ドローンを用いた外壁調査は、この12条点検の調査方法として、どの程度法的に認められているのでしょうか。
国土交通省は、新技術による外壁調査の合理化を図るため、赤外線装置を用いた外壁調査に関するガイドラインを定めており、その中にはドローンに赤外線カメラを搭載して行う調査も含まれています。これにより、一定の条件下で適切に実施されたドローンによる赤外線調査が、12条点検における外壁調査方法の一つとして正式に認められるに至りました。
従来の足場による打診調査と比較すると、ドローンは非接触のため、全面打診のように音や手応えで内部の浮きを直接検知することはできません。しかし、赤外線調査によって表面温度の差から浮きや剥離の可能性を可視化できるという強みがあります。したがって、12条点検にドローン調査を採用する際には、赤外線調査を基本としつつ、必要に応じて特定の箇所を打診調査で補完するなど、他の調査方法と組み合わせることが有効とされています。
ドローン外壁調査サービスの事例と導入方法の比較
ドローンによる外壁調査を自社の業務に取り入れるにあたっては、実際にどのようなサービスが利用できるのか、また、具体的な導入方法を知ることが非常に重要です。
本章では、まず外壁調査に活用されている具体的なドローンサービスの事例をご紹介します。次に、ドローン導入の主な方法である「自社での運用」と「外部専門業者への委託」について比較検討を行います。
操作が簡単なパッケージ「DroneRoofer(CLUE)」
株式会社CLUEが提供する「DroneRoofer(ドローンルーファー)」は、屋根や外壁の点検に特化したドローンとアプリ、そして必要なサポートがセットになったパッケージサービスです。専門的なドローンの知識がなくても、iPadを使った直感的な操作で安全に自動操縦を行い、点検業務を進められる点が大きな特徴です。
建物情報を登録するだけでドローンが自動で点検ルートを飛行し、必要な写真や動画を撮影してくれるため、複雑な操縦スキルは不要です。これにより、ドローンに関する専門知識が少ない作業員でも比較的容易に扱うことができ、特定の担当者しかドローンを扱えないといった属人化の解消にも繋がります。導入後の研修コスト削減にも貢献するでしょう。
自社でパイロットを育成する場合の費用と期間
自社でドローンパイロットを育成するには、様々な費用と一定の期間が必要です。主な費用としては、まず産業用ドローン本体の購入費がかかります。高性能な機体や赤外線カメラなどの搭載機器を含めると、数百万円から千万円を超える場合もあります。次に、安全かつ適切に操縦するための知識や技術を習得するためのドローンスクール受講費用や、必要に応じて国家資格や民間資格を取得するための費用が必要です。さらに、機体保険や賠償責任保険への加入、バッテリー交換や機体メンテナンスといった維持管理費も継続的に必要となります。
育成にかかる期間は、基礎的な操縦スキルや法令知識を習得し、資格を取得するまでで数週間から数ヶ月程度が目安となるでしょう。しかし、これはあくまで基本的なレベルです。実務で求められる応用的な操縦技術や、赤外線カメラを使った高度な調査スキルを習得するには、さらに一定の経験や追加の講習が必要となります。
外部の専門業者に委託する場合の費用と選び方
ドローン外壁調査を外部の専門業者に委託する場合、自社で機材購入やパイロット育成を行う必要がないため、初期投資や運用にかかる手間を抑えられます。費用相場は建物の規模や形状、調査範囲、依頼する業者によって大きく異なります。一般的な費用としては、飛行時間や撮影範囲、必要となる画像データや報告書の作成費用などが含まれます。測量に関する参考情報では、測量面積や成果物によって金額が大きく変動し、都度見積もりを推奨している事例も見られます。外壁調査においても、調査対象となる建物の条件が費用に影響するため、複数の業者から詳細な見積もりを取得し、サービス内容と合わせて比較検討することが重要です。
信頼できる専門業者を選ぶ際は、以下の点をチェックしましょう。
-
実績:外壁調査や同種の調査実績が豊富か、事例や評判を確認します。
-
技術力と保有資格:経験豊富なパイロットやデータ解析技術者が在籍しているか、関連資格(国家資格や民間資格など)を保有しているか。使用するドローンやカメラ、解析ソフトウェアについても確認すると良いでしょう。
-
対応範囲とサポート体制:調査だけでなく、データ解析や報告書作成まで一貫して依頼できるか。トラブル発生時の対応や、調査後のフォロー体制も重要です。
-
価格設定の透明性:見積もりの内訳が明確で、追加費用が発生する可能性について事前に説明があるかを確認します。
契約前には、悪天候時の対応やキャンセルの際の規約、納品物の形式や納期なども確認しておくことで、安心して依頼できるでしょう。
ドローン導入前に必須の法的知識と手続き
ドローンによる外壁調査には多くの利点がありますが、導入前に必ず知っておくべきことがあります。それは、ドローンを飛行させる際に適用される法律や規則、そして必要な手続きがあることです。これらのルールや手続きを正しく理解せず、適切な手順を踏まずに運用を開始してしまうと、罰則や損害賠償といったトラブルに繋がるリスクがあります。安全かつ合法的にドローンを活用し、調査業務をスムーズに進めるためには、事前に必要な法的知識をしっかりと身につけ、定められた申請や確認を正確に行うことが不可欠です。このセクションでは、外壁調査でドローンを運用する際にどのような法律や規則が関わってくるのか、どのような手続きが必要になるのかを、続く項目で詳しく解説します。
「航空法」に基づく飛行許可・承認申請のポイント
ドローンを外壁調査に利用する際は、航空法に基づき、安全な飛行のためのルールを守る必要があります。特に機体重量が100g以上のドローンを飛行させる場合、その場所や方法によっては国土交通大臣からの飛行許可・承認が必要となります。特定飛行と呼ばれるのは、例えば以下のケースです。
-
第三者の上空での飛行
-
人口集中地区(DID地区)での飛行
-
夜間飛行
-
目視外飛行
これらの特定飛行を行う場合は、事前の申請が義務付けられています。
申請は原則として、国土交通省が提供するオンラインサービス「ドローン情報基盤システム(DIPS 2.0)」を通じて行います。申請書を作成し、必要な書類を提出する流れです。許可・承認を得るまでには標準的に10開庁日程度かかるとされていますが、申請内容の不備や混雑状況によってはさらに時間を要する場合があるため、十分な余裕をもって申請することが重要です。
建築基準法第12条定期報告におけるドローンの位置づけ
建築基準法第12条に基づく定期報告制度では、特定建築物の所有者または管理者に、おおむね6ヶ月から3年ごとに外壁の劣化状況を含む定期調査と報告が義務付けられています。この調査は、建物の安全性を確保し、第三者への危害を防止するために非常に重要です。従来の外壁調査は、全面打診による方法が原則とされてきました。
近年、新技術の活用を促進する動きの中で、令和4年の国土交通省告示改正により、ドローンに搭載した赤外線装置による外壁調査が、定期報告における調査方法の一つとして正式に認められました。これは、「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査 ガイドライン」に基づき、テストハンマーによる打診と同等以上の精度で行われることを前提としています。
ただし、ガイドラインに基づくドローン調査実施上の主な留意点は以下の通りです。
-
ドローンによる赤外線調査の結果と、手の届く範囲の打診調査結果との比較検証を行うこと
-
赤外線調査で異常が疑われる箇所については、必要に応じて詳細な追加調査(打診等)を行うこと
-
定期報告書には、ドローンで取得したデータに加え、これらの確認結果も明確に記載すること
これにより、ドローン調査単独ではなく、他の調査方法と適切に組み合わせることで、より確実な診断を目指します。調査の実施は、建築基準法で定められた資格者(一級・二級建築士、建築物調査員資格者)が行うか、その指揮監督のもとで行われなければなりません。ドローンによる外壁調査は法的な位置づけが進んでいますが、ガイドラインに沿った正確な実施と他の手法による補完が求められます。
近隣住民への説明とプライバシー保護の注意点
ドローンを用いた外壁調査を実施するにあたり、近隣住民への配慮とプライバシー保護は極めて重要な課題です。ドローンの飛行や撮影は、意図せず第三者のプライバシーや肖像権を侵害するリスクを伴うためです。飛行前に、調査の目的や日時、おおよその飛行範囲などを近隣住民に事前に説明し、理解を得る努力を行うことが、不要なトラブルを防ぐために不可欠となります。
また、撮影時には、隣接する建物や通行人など、個人が特定できるような情報が映り込まないよう、撮影範囲を限定したり、カメラの角度を適切に調整したりする細やかな配慮が求められます。万が一、個人情報が含まれる映像を取得してしまった場合は、公開・利用する際にモザイク処理やトリミングといったマスキング処理を行うなど、個人が特定できない状態に加工することが重要です。収集した調査データは、厳重に管理し、調査目的以外での利用は避けるべきです。不要になったデータは、速やかに適切な方法で破棄する必要があります。
プライバシーに関する懸念や苦情があった場合に備え、以下の対応策を講じることも、信頼関係を維持するために有効な対策と言えるでしょう。
-
対応フローを事前に定める
-
問い合わせを受け付ける相談窓口を設置する
これらの丁寧な対応が、ドローン活用の信頼性を高め、スムーズな業務遂行に繋がります。
ドローン活用で会社の競争力を高め、未来を切り拓く
これまでに見てきたように、ドローンを活用した外壁調査には、多くのメリットと同時にいくつかのデメリットも存在します。主なメリットとしては、高所作業が不要になることによる安全性の向上、足場設置コストや期間の削減による工期短縮とコスト削減、そして少人数での効率的な調査による人手不足の解消への貢献が挙げられます。また、高解像度カメラや赤外線カメラによる撮影データは、客観的な証拠として報告書の質を高め、顧客への提案力と信頼性向上につながります。
一方で、機体やソフトウェアの導入・維持にかかるコスト、雨や強風といった天候に左右される運用上の制約、打診調査ができないことによる調査精度の限界、そして航空法やプライバシー保護といった法的配慮が必要である点は、ドローン導入を検討する上で理解しておくべきデメリットです。
しかし、建設業界全体が人手不足や職人の高齢化という構造的な課題に直面している現在、ドローン導入はこれらの課題を克服し、企業の競争力を高めるために不可欠な選択肢となりつつあります。特に、建築基準法第12条に基づく定期報告制度においても、ドローンによる赤外線調査が正式な調査方法として認められるなど、法的な位置づけも進んでいます。
ドローンを最大限に有効活用するためには、関連する法的知識を正確に習得し、安全かつ適法な運用を行うことが重要です。また、自社でパイロットを育成するのか、あるいは外部の専門業者に委託するのか、自社の状況に合った最適な導入方法を選択することも成功の鍵となります。