所有している土地に一定以上の高さがある場合、擁壁(ようへき)を設置することが義務付けられています。
土地の斜面が崩れないように設置している擁壁は、劣化すると役割を果たすことができません。そのため、補修工事を検討する必要があります。
本記事では、擁壁の劣化症状や工事にかかる費用相場を解説します。さらに費用を抑える方法も紹介するので、メンテナンスを検討している方だけでなく、これから擁壁を設置する必要がある方のご参考になれば幸いです。
擁壁工事の基礎知識
ここでは、擁壁工事の基礎知識について解説します。
擁壁とは
擁壁とは、高低差がある土地の斜面が崩れないように設置・建造される壁状の建造物のことです。
傾斜地に家を建てる時には、平らな土地を作るので隣地との間に高低差が生じます。高低差のある土地の斜面は、以下のような原因によって崩壊するリスクがあります。
- 家の荷重
- 地震
- 大雨
- 台風
建物の倒壊や土砂崩れなどの被害を防ぐ重要な役割を担っています。
劣化症状
代表的な劣化症状は、次の3つです。
ひび割れ・変形・膨れ
ひび割れや変形、膨れなどの症状がある場合は、強度低下が考えられます。
地震や大雨などで擁壁が崩壊する可能性があるため、一度業者に点検してもらいましょう。点検結果に応じて、補修や塗装工事などが有効です。
排水の不良
擁壁が設置されている地中の内部に水がたまると、水圧によって擁壁が崩壊する危険性があります。そのため、水を外部に排出するための水抜き穴が取りつけられています。
水抜き穴が詰まっていたりコケが生えていたりする場合は、排水不良が考えられます。この場合、擁壁表面が湿気を含むなどの症状が出ることがあります。
なお、建造時期によっては水抜き穴自体がないものもあり、擁壁の変形や大雨の時などに崩壊の危険があります。
ひび割れ箇所や隙間が白く変色
ひび割れ箇所や隙間が白く変色している場合は、擁壁背面にひび割れが起きている可能性があります。
白く汚れただけ、と安易に判断せず、一度業者に点検してもらいましょう。
擁壁の種類
敷地の条件などにより、擁壁工事ではさまざまな種類の擁壁を使用します。
なお、工事では以下で紹介する擁壁を設置するだけでなく、塗装をすることがあります。塗装工事は、主に補修やメンテナンス、意匠性の回復を目的としています。
鉄筋コンクリート擁壁(RC擁壁)
鉄筋コンクリート擁壁は、宅地の擁壁工事でよく使用されます。無筋コンクリートよりも強度があるので垂直に設置することが可能で、土地の面積を広く活用できます。
また、鉄筋コンクリート擁壁は形状により次の3種類があります。
- 逆T型
- L型
- 逆L型
これらは敷地の条件によって、最適な種類が選定されます。
コンクリートブロック擁壁
コンクリートブロック擁壁は、間知(けんち)ブロック擁壁とも呼ばれ、ブロックを積むことで擁壁を作ります。約5mの高低差がある住宅地や大規模マンションなどで多く目にします。
なお、コンクリートブロック擁壁には一定間隔で水抜き穴が設置されています。
石積み擁壁
石積み擁壁は、石を積み上げて擁壁を作ります。石積み擁壁は、石の積み方によって大きく次の2つに分けられます。
- 練り石積み擁壁
- 空石積み擁壁
練り石積み擁壁は、積み上げたあとに石の隙間にセメントなどを補填して強度を保ちます。
一方の空石積み擁壁は、積み上げた石の隙間を砂利や小石で埋めただけのものです。ガーデニングなどで目にしますが、強度面で不安が残ります。
擁壁工事の費用相場
擁壁工事の費用は、1㎡あたりの単価に、設置する幅(長さ)を乗じて算出します。
擁壁工事の単価は、3〜10万円/㎡が相場といわれています。
ここでは、工事の費用目安と費用が変動する要因について解説します。
単価の相場
1㎡あたりの単価相場は、敷地状況や擁壁の形式などによって異なります。
ひび割れなどの補修・メンテナンスと一般的な擁壁工事について、1㎡あたりの単価の相場は、次のとおりです。
擁壁工事の種類 | 1㎡あたりの単価の相場(円) |
---|---|
塗装工事(補修・メンテナンスなど) | 1〜2万 |
一般的な擁壁工事(擁壁を設置する) | 3〜10万 |
塗装工事と比べて、一般的な擁壁工事の単価相場が高額なことが分かります。
計算シミュレーション
工事項目は、擁壁を設置する工事以外にも多岐にわたります。 工事例を用いて計算してみましょう。工事項目と費用の内訳がイメージできれば、おおまかな費用相場を把握できます。
工事を以下の条件で行うこととします。
- 高さ:2m
- 幅(長さ)30m
工事項目 | 単価相場(円) | 数量 | 税抜の合計額(円) |
---|---|---|---|
掘削・基礎工事 (擁壁を設置する準備) |
6,000 (1mあたり) |
30m | 18万 |
擁壁工事 (RC擁壁:L型の場合) |
5万5,000 (高さ2m/幅1mの場合) |
30m | 165万 |
重機回送費 (トラックなどの重機) |
4万5,000 | 4台 | 18万 |
現場諸経費 (現場管理・廃棄処理など) |
– | 10% | 20万1,000 |
総額 | 221万1,000 |
この工事例では、工事総額は221万1,000円になりました。
なお単価相場や現場諸経費などは、工事を依頼する業者によって異なることがあるので注意が必要です。
費用が変動する要因
工事にかかる費用は、さまざまな要因によって変動します。
設置する土地の状態
設置する土地の状態は、工事費用を大きく変動させます。
たとえば、軟弱な地盤の場合は地盤を安定させるために地盤の補強を行います。地盤が軟弱であればあるほど、基礎工事の費用が加算され工事費用が変動します。
工事現場の立地条件
工事現場の立地条件によっても、工事費用は変動します。
たとえば工事現場までの道路が狭い場合は小型トラックが必要です。小型トラックは積載量が少ないので、材料または残材を運ぶ回数が増えてしまい運搬費が加算されます。
また、工事場所の前面道路が4m道路などで道幅が狭い場合は、通行制限が必要です。この場合、ガードマンの人件費が工事費用に加算されます。
擁壁の角度
同じ鉄筋コンクリート擁壁の工事であっても、勾配によって形状や工事方法が異なります。
一般的に、ゆるやかな勾配に比べて勾配のきつい場所の工事は、費用が高くなります。これは擁壁の強度や安全性を確保するという目的のためです。
工事費用を抑える方法
前述のとおり、工事費用が変動することも多く、多額の費用がかかります。ここでは費用を抑える方法を3つ解説します。
助成金の活用
高さ2mを超える大規模な擁壁工事の場合には、各地方自治体の助成金制度を必ず確認しましょう。
たとえば、東京都港区では「がけ・擁壁改修工事等支援事業」という助成金制度があります。一定の条件のもと、擁壁工事にかかる費用の2分の1以内が助成金として負担されます。
助成金制度の対象や申込に必要な書類などは各地方自治体で異なるため、事前に確認しておきましょう。
複数の工事をまとめて依頼する
擁壁工事を検討する際は、一緒に検討すべき工事がないかを確認しましょう。
外壁や屋根の塗装工事をまとめて同一の会社に依頼すれば、工事費用を抑えられます。
外壁や屋根は定期的なメンテナンスが必要です。擁壁工事をきっかけに点検してもらうのもよいでしょう。
複数の会社から見積を取得
同じ内容の擁壁工事でも、会社によって工事費用は異なることがあります。
工事まで時間に余裕がある場合は、3社以上の会社から見積を取得しましょう。工事の総額だけではなく、費用の内訳や施工方法などもしっかりと比較検討して工事費用を抑えましょう。
その際、外壁工事や屋根工事の一括査定サイトであれば、簡単な情報を入力するだけで、一度に複数の業者に問い合わせることができます。
希望に合う業者を見つけるためにも、一度利用を検討してもよいでしょう。
擁壁工事に関するよくある質問
- 擁壁工事の費用相場はどれくらい?
- 擁壁を設置する工事の費用相場は1㎡あたり約3~10万円です。また、補修やメンテナンスのための塗装工事は1㎡あたり約1~2万円です。
- 擁壁の工事費用を抑える方法は?
- 各地方自治体の助成金を活用できます。また、外壁や屋根の塗装など複数の工事をまとめて依頼することでも費用が抑えられます。