屋根塗装の工程のひとつである「縁切り」。縁切りを怠ってしまうと、塗装後に雨漏りなどのさまざまな不具合を引き起こしてしまうおそれがあります。
ここでは、屋根塗装で行う縁切りとは何か、具体的な方法と併せて解説します。
屋根塗装で行う縁切りとは?
屋根塗装において重要な工程である縁切りとは、どのような作業内容なのでしょうか。
縁切りの目的
屋根塗装の縁切りとは、瓦同士の隙間が塗料でふさがれないようにする作業のことです。
基本的に金属屋根以外の瓦は、瓦同士に隙間を作って施工します。それにより、以下のような効果があります。
- 屋根下地の通気性が確保できる
- 内部に侵入した雨水が軒先に流れる
屋根塗装を行う際、一気に全面を塗装すると、瓦の隙間を塗料によりふさがれてしまいます。屋根の通気性が悪化し、雨水がうまく排水されず、最悪の場合は雨漏りにつながります。
縁切りをしっかり行わないと浸水が発生する。スレートの重なり部の軒先側が塞がれるため、内部へ浸入した水は排水されず、釘孔から下地へと浸水する。
国土交通省 国土技術政策総合研究所「第3編【造り手向け】リスク分析・評価ガイドライン 第Ⅳ章 木造住宅の水分に起因する劣化リスク分析・同解説」
そこで、ふさがった部分の塗膜を切る(縁を切る)などの、縁切りの作業を行います。
屋根だけでなく、建物の耐久性を維持するためにも、縁切りは屋根塗装において重要な工程です。
縁切りの方法
屋根塗装の縁切りは、主に以下3つの方法があります。
- 瓦重ね部のはけ塗り
- 屋根塗装後に縁切り
- 縁切り専用タスペーサーの使用
それぞれの具体的な作業内容を紹介します。
瓦重ね部のはけ塗り
瓦重ね部のはけ塗りは、瓦同士の隙間が作られている重ね部分に塗料がつまらないように、ひとつひとつ、はけで丁寧に塗装を行う方法です。
作業は、以下の手順で行います。
- 塗料が入り込まないよう、瓦の隙間をマスキングテープなどで養生
- ローラーや吹き付け塗装で屋根全体を塗装し、養生を外す
- 養生で隠れていた瓦の隙間部分をはけ塗りで塗装
はけ塗りは仕上がりがきれいになる分、時間がかかる作業です。
屋根塗装後に縁切り
はけ塗りと異なり、瓦の隙間部分に養生は実施せず、屋根全面を塗装します。塗料が十分に乾燥したあと、隙間に入り込んだ塗料をカッターなどの専用工具を用いて取り除きます。
屋根の塗装後に縁切りをする方法は、以前は主流でしたが、いまではほとんど採用されていません。はけ塗りほどではないですが、ひとつひとつカッターで縁切りを行う必要があるため、作業に時間がかかるのです。
さらに、以下のようなデメリットがあります。
- カッターで瓦が傷つくリスクがある
- 塗装後の屋根に職人が乗るため、足跡や汚れが残るおそれがある
そのため現在は、後ほど紹介するタスペーターを使用する縁切りが一般的な方法です。
縁切り専用タスペーサーの使用
縁切り専用タスペーサーを使用する方法は、画期的な方法として、最近の屋根塗装工事で広く採用されています。
屋根塗装は基本的に、下塗り・中塗り・上塗りの3回重ね塗りして、塗料の密着度を高めます。最初の下塗りが乾燥したあと、縁切り専用の専用部材であるタスペーサーを瓦に差し込みます。
これにより塗装完了後も瓦の隙間が確保され、塗料による目詰まりが発生しません。はけ塗りや塗装後の縁切りが不要になるため、作業時間を大幅に短縮できます。
縁切りが必要なのはスレート屋根
すべての瓦屋根で縁切りの作業を行うわけではありません。縁切りが必要なのは、スレート屋根です。
理由は、スレート屋根は瓦が薄いため、瓦同士の隙間がわずかで、塗料でふさがれてしまうリスクが高いからです。
スレート屋根の構造は下の図のようになっています。
引用:国土交通省 国土技術政策研究所「木造住宅外皮の設計施工に起因する不具合事例集」
瓦同士が重なり合っており、重なり部分にわずかな隙間があることがわかります。塗装を行うと、この部分に塗料が入り込むため、縁切りが必要です。
一方、セメント瓦は十分な隙間があり、日本瓦や陶器瓦の場合はそもそも塗装の必要がありません。そのため、メンテナンスで隙間がふさがれる心配はありません。
縁切りをしないとどういうトラブルが起きる?
スレート屋根の塗装で縁切りをしないと、以下のような問題が発生します。
- 瓦の通気性が悪化
- 凍害やカビ、コケの発生
- 下地材の
腐朽 - 雨漏りの発生
それぞれについて順に解説します。
瓦の通気性が悪化
前述したとおり、瓦同士の隙間は瓦の通気性を維持するために設けられています。当然、隙間がふさがれてしまうと通気性が悪くなり、湿気がこもってしまいます。
また、塗料で雨水がせき止められて排出されません。結果として瓦が常に湿潤状態になり、劣化を早めてしまいます。
凍害やカビ、コケの発生
瓦の湿潤状態が長期間続くと、カビやコケの発生を引き起こします。
カビやコケは瓦にとって天敵です。カビやコケが瓦に根を張ると繁殖し、どんどん広がっていき、劣化を促進させます。
カビやコケが発生した箇所は、根っこが瓦の内部に侵入して水分を蓄えます。最終的に、瓦が水分を含みボロボロになっていくでしょう。
もろくボロボロの瓦は、もはや雨を遮る効果は持っていない状態です。やがて屋根の下地材にまで被害が及ぶでしょう。ここまで劣化症状が進行すると、瓦の
下地材の腐朽
瓦の湿潤状態が長期にわたって続いたり、瓦がもろくなったりすると、瓦を固定しているくぎの穴などから雨水が屋根の防水シートや下地材にまで侵入します。
下地材に水分が含まれると、自然に乾燥はしないため、やがて下地材が腐朽します。
下地材が腐ると柔らかくなり、瓦を止めているくぎが外れてしまいます。その状態で強風にあおられると、瓦が飛ばされる可能性がグッと上がるでしょう。
ここまで被害が広がると、下地材の張り替えが必要です。瓦で隠れており被害状況が外観からではわかりにくいため、広範囲の瓦をめくって確認する必要があります。
雨漏りの発生
屋根塗装の縁切りをしなかっただけでも、雨漏りが発生する可能性が十分に考えられます。
- 天井や壁にシミができ、雨が降るたびに大きくなる
- 天井や壁クロスの浮き、はがれ
- 天井から水滴が落ちてくる
- 床が膨れ上がる
- 家全体に結露が多くなる
- ふすまや障子が波打つ
- 耳を澄ますと水滴の落ちる音が聞こえる
上記のような状態の場合は、早急に専門家へ相談しましょう。
縁切りに関する注意点
ここからは、縁切りに関して注意するポイントをいくつか紹介します。
縁切りが不要なケースもある?
実は、縁切りの必要性は職人によって考え方が異なるのが実情です。
一般社団法人 外壁塗装協会の「初めてのスレート屋根塗装ですが、縁切り作業をしてもらっていません。」を見ると、いままで雨漏りなどのトラブルに遭遇したことがないなどの理由で、初めての屋根塗装には縁切りを行わないという方もいるようです。
また、以下のケースは縁切りが不要といわれています。
- 屋根の勾配が急で、十分に雨水が流れる
- 瓦が経年劣化で反って、隙間が広がっている
しかし、国土交通省 国土技術政策研究所「木造住宅外皮の設計施工に起因する不具合事例集」では、縁切り未実施による雨漏り被害の事例が紹介されているのも事実です。
結論、縁切りは、やっておいたほうが雨漏りのリスクは減らせると考えるのがよいでしょう。
また、プロの視点から縁切りが本当に必要か判断してもらうと安心です。もしどうしても縁切りを実施したい場合は、見積もりの時点で依頼しておけば、断る施工会社はまずないでしょう。
縁切り専用タスペーサーは塗装後取り外さない
タスペーサーは、塗装後に撤去しないのが正しい施工方法です。理由は、熱で軟化した塗膜が再密着する危険性があるためです。
夏場以外も、照りつける太陽光により屋根の温度は想像以上に高くなります。そのため季節を問わず、塗装が終わっても取り外さないようにしましょう。
また、すでに激しく劣化した瓦にタスペーサーを使用すると、メンテナンス時に職人が屋根の上を歩くだけで瓦が割れるおそれがあります。使用するかの最終的な判断は、プロの施工会社に屋根の状態から判断してもらいましょう。
施工会社によって仕上がりに差が!
縁切りの工程ひとつでも多くの注意点やリスクがあります。
屋根塗装は劣化状況や目的によって、工程や使用塗料などが違います。施工会社は、これらを判断できるような知識はもちろん、顧客へわかりやすく説明する能力も求められます。
安いからといって、知識や実績の少ない施工会社に安易に依頼してしまうと、塗装直後に不具合が発生してしまうかもしれません。
とはいえ、信頼できる施工会社を自分で見つけるのは手間と時間がかかります。
まずは、必要事項を一度入力するだけで複数の施工会社に見積もり依頼ができる、一括比較サイトの「ぬりマッチ」を利用しましょう。ぬりマッチの利用には、以下のようなメリットがあります。
- 相談の手間が大幅に削減できる
- 同一条件の見積もりを比較しやすい
- 審査に通過した加盟店のみなので信頼性が高い
無料で利用できるインターネットサービスですので、気軽に活用してみましょう。
屋根塗装の縁切りに関するよくある質問
- 屋根塗装の縁切りは不要?
- スレート屋根の場合は、瓦同士の隙間が塗料でふさがれないようにする縁切りが必要です。スレート屋根は瓦が薄いため、瓦同士の隙間がわずかで、塗料でふさがれてしまうリスクが高いからです。一方、セメント瓦は十分な隙間があり、日本瓦や陶器瓦の場合はそもそも塗装の必要がありません。
- 屋根塗装で縁切りをしないとどういうトラブルが起きる?
- 瓦の通気性が悪化したり、凍害やカビ・コケの発生、下地材の腐朽などのトラブルが発生します。それにより、雨漏りが発生するリスクもあります。